日本では一年を通して感染症の流行があり、5年前からのコロナだけでなく、インフルエンザも暖かい時期になってもかかる人が多かったりします。マイコプラズマやノロウイルスなど数多くの感染症が次から次へと流行っていくのです。

一年中感染症が流行ってるから、ホント気が抜けないよね。

そやなぁ、子どもらや保護者の人、高齢者の人らはもっと気ぃ付けなあかんわなぁ…

今は医療が発達してるから何とかなるけど、昔の人たちはこんな時どうしてたんだろう?

それはもう、その人の運と体力頼みやったやろなぁ…
今から40年ほど前までは、毎年春ごろに多くの子どもたちが麻疹(はしか)にかかりました。現代でも時々ワクチンを打ってなかった子どもたちがあとになってかかることもあり、根絶されているわけではありません。
そして大人がかかると大変ひどい症状になり、昭和の初めあたりまでは大流行で多くの人が亡くなりました。医学が発達していなかった江戸時代には想像を絶する状況だったと思われます。
そこで今回は、そんな時に人々はどんな方法で疫病から逃れようとしたか、またかかってしまった時はどんな治療法をしたのかをお伝えしてみようと思います。
我が家には、葛飾蘆菴撰(著)の「麻疹必用」という江戸時代の疫病対策が書かれた本があります。
こんな本です。江戸の千鍾房というところが発行(=發兌)してますね。

わからない字が多くて苦労したけど、読んでみたらこれがとっても興味深い内容でした。書かれていた治療法、今なら「え~こんなことやって治るの?」って思うものばかり。ビックリするような対処法もあります!
疫病について、悲しいほどよくわかってなかった江戸時代の人たち。それでも何とかして生き延びようとする気持ちがにじみ出ていました。
ということで、今回はこの本を参考に解説してみようと思います。
これを読むと
・麻疹と天然痘にかかる前の「今では考えられない」予防法
・麻疹と天然痘にかかってからの「ありえない」治療法
・江戸時代の人たちの疫病に対する考え方
がわかるので、京都だけでなく江戸時代の人たちの姿を見るつもりでご覧になってください。
この本にある昔の2大感染症・麻疹(はしか)と疱瘡(天然痘)の対処法を覗きますよ~
疫病以外の災厄も除けてしまう京都特有のおまじないはこちらに書いてます~
で、一つ注意があります…
麻疹の症状を本の中で図示してあるのですが、かなり気持ち悪いです💦 また、参照しているアドレス先の写真はもっとすごいです(怖) 「ブツブツ」模様が苦手な人は飛ばしてしてくださいね~
では早速始めましょう♪
1.麻疹の治療法とおまじない
今回参考にする「麻疹必用」という本には、麻疹や疱瘡(天然痘)の「治療」と「罹る前、そして罹った後に早く治るようにするおまじない」について書かれています。実際のところ「治療」なのか「おまじない」なのかわからないものがほとんどで、みなさんには「どちらに見えるか」考えながら読んでいただければと思います。
はい、ではまず、麻疹除けの部分をご紹介しましょう。
①麻疹にかからないようにするための「おまじない」
で、早速で申し訳ないのですがブツブツの図です^^;
「麻疹必用」にある麻疹の症状図をご紹介します(ここでやめないでね!)


大丈夫ですか?^^; このような図が4つあって、重い方から1番目~3番目までの図を掲載しています。このころは、ブツブツの色の濃さによって症状の程度を分けていたようです。

あれ?なんだかこの図、中国人っぽくない?髷も帽子も服も。

そやなぁ!ひょっとして中国の本を写したんやろか??誰か教えてほしいなぁ…
そしてここからは「麻疹にかからないようにするにはどうするか」また、「この症状をどうやって緩和するか」についての解説が書かれています。
1)おまじないのような、治療のような…
「麻疹必用」には、「麻疹にかかる前に行うおまじない」として、以下のようなことが書かれていました。
A)家の中の掃除をして清潔にする。
B)香をたく
C)タラヨウの葉(ハガキの木)に名前と年を書き、身体をなでて川に流す。
D)緑豆・黒豆・小豆・甘草を煎じたお茶を飲む。
E)麻の葉を擦ったものを煎じて沐浴をする。冬は麻苧と生姜で作る(+茗荷)
F)屠蘇散を飲む
つまり、麻疹にかからないようにする方法、ということですね。1つずつ詳しく見てみると、
A)の「清潔にする」というのは今では当たり前のことですね。「掃除をして清潔にする」という行動が「病気と関連している」と考えるのが、常識ではなかったかもしれません。
B)の香を焚くというのはさらにおまじないっぽくなってきてますが、香を焚いてその場を清める、というのが清潔と関連するというのはわからなくもないですね。また漢方薬を練りこんだお香もあり、薬効?による疫病除けを狙ったもののようです。
そういった漢方的な意味としてはD)や F)も当てはまるようです。
また、E)は薬草の働きというよりは、昔から麻の繊維がとても強いことにあやかっているように思います。麻の柄を着物に使用したのも厄除けのためでした。冬はショウガを入れているところは、なんだかとっても良く温まりそうでいい感じですが、「だから麻疹にかからない」というのとは別ですよね。
2)麦殿大明神って?!
ただ、C)はホントにおまじないのみです^^;


タラヨウの葉に名前と年の他、こんな歌を書くんですよ。
むぎどのは 生まれたままに はしかして かせての後は わが身なりけり
これは「麦殿大明神」の歌なんです。麦殿大明神とは、麻疹の神様のこと。
意味は
麦殿大明神は生まれながらにはしかにかかっていて、かさぶたができた後の姿、それは私なんですよ。(なので私はもうはしかにかからないんです)
みたいな感じですかね。
なぜ麻疹に「麦」なのか?これは麻疹になると喉がチクチクするのを、麦のトゲトゲ部分と同じようになることから関連付けているのですが、京ことばともかかわりが深く、これについて書いてみたものがあります。是非読んでみてくださいね。うんちくが1つ増えますよ♪
そうそう、タラヨウ、ご存じですか?葉をひっかくと跡が黒くなって字が書けるんです。このころはこのおまじないが流行って、タラヨウの葉が売られてたそうですよ。

って、みんなやってたのか~!
実は他にも漢方薬のようなものが取り上げられており、一見医学的な匂いはします。しかし薬効vsおまじないの戦いということになると、おまじないがぶっちぎりで勝ってるような気がしました♪

「罹るまえのおまじない」ていう「予防法」を「治療法」と一緒に書くところが何とも言えんわなぁ…
②麻疹に罹ってから気を付けること
次はいよいよ麻疹に罹ってからの注意事項です。食べて良いものと悪いものが出てましたよ。
挙げられた食べ物を、その効果を考えながら種類分けしてみました。
1)食べて良いもの
種類分け | 食べて良いもの |
---|---|
身体に良さそう | 味噌汁・醤油・大根・干し大根・山芋・冬瓜・白瓜・葛粉・かたくり・鰹節・黒豆・クコの芽(抗炎症・解熱)・ウコギ(治癒力を高める生薬) |
赤いもの | にんじん・小豆・かながしら(赤い魚) |
甘いもの | 砂糖・らくがん・白雪こう(=はくせんこう)・かるやき |
消化悪そう | タンポポ・ごぼう・かんぴょう・あわび・うど・ふきの茎 |
現代の医学では ビタミンAが麻疹に非常に効くということを証明しているのですが、これを見る限り、あまり関係の無いものが選ばれていますね。
漢方薬の材料や、薬膳的な「体をあたためる」ものや、昔は栄養補給に使われた「甘い」ものを推奨しています。「赤い」ものとして選ばれた食材は厄除けでしょうが、薬膳として多少は効いたかもしれません。

昔、子どもの栄養補給のために地蔵盆のときに配らはった「白雪こう(=はくせんこう=らくがん)」もあるなぁ♪
しかし「タンポポ・ごぼう・かんぴょう・あわび」は消化が悪そうですね~ どうして入っているのか調べてみると、どれも漢方で用いられる食品のようです。でも、そのまま食べて薬効があるのかどうか??そのあたりはわかりませんでした…
2)食べてはいけないもの
一方、食べてはいけないものは以下の食べ物です。
種類分け | 食べてはいけないもの |
---|---|
喉に悪そう | 酢・酒金柑・みかん・柚子・九年母(酸味)・餅・唐辛子 |
消化悪そう | 炒り豆・きな粉・生梅・蕨・タケノコ・芹・あらめ・ひじき・こんにゃく・魚介類 |
身体冷えそう | リンゴ・梨・枇杷・柿・胡瓜・茄子・豆腐 |
喉に刺激がある柑橘類や唐辛子、のどを詰めそうなお餅、消化の悪そうなもの、身体を冷やしそうなものが並んでいます。お豆腐は消化がいいから食べても良さそうですが、薬膳では身体を冷やす働きがあるためにここに挙げられているようです。
こうやって見てみると、一応体力の弱った病人のために考えられたものだと言えそうです。だからと言ってこれを食べれば治るというものでもなく、治るにはやはり本人の体力を頼みにするしかなかったのでしょうね。

そやさかいに、おまじないにしかならんとわかってても、それに賭けたんやろなぁ。
2.疱瘡ほうそうの治療法とおまじない
さて次は「疱瘡」です。前出の古書「麻疹必用」には疱瘡の治療法とおまじないについても詳しく書かれています。
① 疱瘡にかかる前にすること
1)掃除・清潔にする。切火をする。
ほこりを除け、空気まで清めたんですね。これは麻疹と同じく感染症には共通するところです。現代にも通じる防御法です。
2)赤いものを痘瘡(疱瘡)神に供える。
疱瘡には「痘瘡神」という神がいて、その神に家の中に入って暴れられると感染すると考えられていたので、とにかくおとなしくしてもらうことが大事でした。そのため疱瘡神を祀り、魔除けの色である赤いものが供えられたのです。人々は民間信仰ででもなんとか逃れようと必死だったんですね。
この本には例として「赤いお菓子・おこわ(赤飯)・赤い魚(ほうぼう・赤鯛・いとより)・赤いおもちゃ・お酒」が挙げられています。お酒は赤くないので、徳利に入れ赤い紙などで飾りました。


そのころ赤ワインがあれば一番にお供えされてただろうね♪
麻疹とは違い、子どもは疱瘡にかかると重症になりました。赤いおもちゃが供えられていますが、遊ぶこともできなかったでしょうね(泣)ミミズクや達磨(起き上がりこぼし)は縁起の良いものとして選ばれています。
ミミズクは邪気を払い、達磨は「倒れても自ずから起き上がるので良い」とされているところなどは、もう縁起担ぎ以外の何物でもありません。藁にもすがりたい気持ちの表れなのでしょう。これはまた他の生き物でも邪気払いをしていたので、後で説明したいと思います。
京都市上京区で赤飯を販売する老舗「鳴海餅」さんによると、赤飯は昔、厄払いとして葬式で食べられていたそうです*2。これは赤い色が魔除けの効果を持つというところからなので、疱瘡神を除ける効果もあると考えられたのでしょうね。
また、18世紀後半に日本に伝えられていた種痘(疱瘡の予防接種)はようやく幕末に実施されるようになりました*3。が、種痘はまだ普及していたわけではありません。それは今回参考にした「麻疹必用」が同じころ出版されていたことからもわかりますね。まだまだこの時代、疱瘡は命を奪う怖い病気であったことには変わりはなかったようです。
*2 鳴海餅サイト・暮らしと和菓子より
*3 「東西の古医書に見られる病と治療 - 附属図書館の貴重書コレクションより 3.疫病から伝染病へ」より
また本のこのページに書かれている「住吉大明神」は「住吉大社」のことです。疱瘡の神様と思われていたらしいのですが、住吉大社のサイトにもそのようなことは一切かかれていません。当時の民間信仰的に考えられていたのかもしれません。
どうしてそんなふうに関連づけたのだろうと思ったところ、ふと浮かんだのが住吉大社のお使いが兎であること。これかなと。兎は疱瘡ととても縁のある生き物なので、前出のミミズクと共に次の章で詳しく解説しますね。
② 疱瘡にかかってから気を付けること
1) 疱瘡に罹ったとき食べても良いもの・いけないもの
こんどは「疱瘡」にかかってから食べるべきもの、食べてはいけないものを表にしてみました。
種類分け | 食べて良いもの |
---|---|
身体に良さそう | 味噌汁・醤油・大根・干し大根・山芋・冬瓜・白瓜・葛粉・かたくり・鰹節・クコの芽(抗炎症・解熱)・ウコギ(治癒力を高める生薬)・梅干し・百合(根?)・緑豆・青菜・蕪の菜・生姜・昆布 |
赤いもの | にんじん・小豆・黒豆・かながしら(赤い魚) |
甘いもの | 砂糖・らくがん・白雪こう(=はくせんこう)・かるやき・軽い菓子 |
消化悪そう | タンポポ・ごぼう・かんぴょう・あわび・うど・ふき(の茎)・いんげんささげ・レンコン・イリコ・さより・鯉・鮒・カキ・カレイ・ヒラメ・赤貝・ |
赤字は麻疹と共通している食べ物です。疱瘡は、随分食べて良いものが多いなぁという印象です。
一方、食べてはいけないものは麻疹とほぼ同じなので、本では省略されていました。
その他、大きな音をさせない、近くで大笑いしない、不快な臭いを発生させないなど、今なら当たり前と言えば当たり前な注意点がならんでいました。言い換えると、もう他にはできることがない、ということだったんでしょうね。
2)「ミミズク・ホトトギス・兎」で邪気払いをする
・「ミミズク・ホトトギス・兎」を飼う。
本には「疱瘡が発生した家でミミズク・ホトトギス・兎を飼うと、邪気が払われ、患者の症状が軽くなる」とあります。

では、生きているミミズクやホトトギスが得られない場合はどうするかというと、
羽の黒焼きをそばに置く
のだそうです。なぜに黒焼きにするの?と思って、思い出したのが「梅干しの黒焼き」。黒焼きにすると、薬としての効果が出てくると思ったんでしょうか…

ここまでくると、なんか悲しなってくるなぁ…
これらの飼われることが珍しい鳥と比べ、比較的身近にあった兎は、飼うことはもちろん、食べることでもブツブツの出方が少なくなる、とあります。

この説明の中で一つ、情景が浮かびそうだったおまじないがこれです。
兎の足にて 痘の痒み有るを撫でれば かゆみ止むこと妙之…
ちょっと可笑しさもあるけれど、やっぱり悲しくなってきますね…
また、「兎血丸」「兎紅丸」など「疱瘡の薬」と言われている物には、兎の生き血が混ぜられているものが多いです。*5

兎たち、可哀そうに…なんの効果もないのに…

江戸時代でも命を取られる病気やったし、兎のことまで考えてる場合やなかったんやろなぁ。
*5:「疱瘡雨夜談」国立国会図書館所蔵
・これらの生き物が選ばれたわけは?
しかしどうしてこの3つの生き物が選ばれたのでしょうか?この本には「ミミズク・ホトトギス・兎」のことを「陰鳥・陰獣」と説明しています。
江戸川乱歩「陰獣」によると
おとなしくて陰気だけれど、どこやらに秘密的な怖さ不気味さを持っているけだもの
と説明しています。
つまり、このような怖くて不気味な感じのするものは神秘的な力を持っていると思われた、と考えることができるでしょう。
たしかにミミズクは普通の鳥とは大きく姿が違い、夜に恐ろしい声を出すところは昔の人に神秘的に映ったでしょうね。また、ホトトギスの口の中*6 やウサギの目の赤い色が邪気を払ってくれると思ったのかもしれません。


ウサギの絵、「陰獣」とされてるだけあって、あんまり可愛くないよね~
*6:公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会「漢詩を紐解く! 2020年3月」には、ホトトギスのことを漢詩の中で「血を吐きながら鳴く、奇怪な鳥」と表現されると書かれています。
3.「麻疹は命定め、痘瘡(天然痘)は見目定め」
① 疱瘡より麻疹のほうが怖い?
麻疹は子どものころにかかると軽く済むのですが、私の子どもの頃のことを考えると、5年くらいの周期で大流行もあったためにほぼ全部の子どもたちがかかり、ワクチンはまだなかったけれど軽症の人が多かったように思います。
しかし江戸時代の流行は10~20年くらいの周期で、子どものころにかからず大人になってしまった人たちが重症になり、亡くなる方も多かったとか*7。そしてもちろんその時代衛生状況も今の比ではなく、麻疹は死の病気だったのです。
*1 「東西の古医書に見られる病と治療 - 附属図書館の貴重書コレクションより 3.疫病から伝染病へ」より
この本には、疱瘡ははしかほど重くないようなニュアンスで書かれていて、手当も疱瘡の方が大雑把です。説明している枚数を見ても麻疹は疱瘡の2倍のページを割いています。食べて良いもの・悪いものの項でも、「麻疹は疱瘡よりも重い」と書かれ、軽い方の疱瘡の項では食べ物の列記が省略されていましたね。
江戸時代には「麻疹は命定め、痘瘡(天然痘)は見目定め」という言葉がありました。「麻疹は命が危なくなり、疱瘡は見た目が悪くなる」という意味です。
疱瘡はかかると豆のようなぶつぶつが全身にでき、助かったとしてもひどいあばたが残ります。それはかかった人にとってはとてつもなくショックだったからこそ「痘瘡は見目定め」と言われたのでしょうね。
私が参考にした論文*8に「感染者の写真」がありますが、恐ろしいほどの症状です。ブツブツ恐怖症の方は見ないでくださいね!!
*8 加藤重孝 「人類と感染症との闘い 第2回 天然痘の根絶 ―人類初の勝利― 」p.284
②麻疹・疱瘡の流行周期
江戸時代の「痘科弁要」という本にはそれぞれの感染症がこのような周期で流行ると書かれています*9。
「水痘ハ毎歳、痘瘡ハ参年、麻疹ハ三七弐拾壱年」
=「水ぼうそうは毎年、疱瘡(天然痘)は3年、麻疹は(さんしち)21年」
昔、疱瘡は3年ごとに流行ったのに比べ、麻疹は2,30年ごとに流行ったようです。麻疹はスパンが長く、それで子どものころに免疫を付けるということができなかった人たちが大人になってかかり、重症になって亡くなる方も多かったということです。
疱瘡は致死率が3割ほどあったので、決して麻疹より軽い病気ではありませんでした。しかし治ってからのあばた姿が酷かったため、「命さだめ」は麻疹に譲ったのかもしれません。
*9 全訳 天然痘ワクチン接種クリニックガイド 解説文 参照
4.参考文献
①「人類と感染症の歴史」 加藤重孝著
参考にさせていただいたネットの論文は、感染症別に書かれたものがまとめて書籍化されています。医学の難しい話ではなく、感染症の詳細な歴史の解説なので、素人でも大変読みやすくおすすめです♪
②「麻疹必用」
なお、「麻疹必用」は国立国会図書館、京都大学などが所蔵しており(東京大学のは最後部欠損)、全ページがネットで公開されています。以下にリンクをご紹介しておきますね。興味のある方は覗いてみてください♪
*国立国会図書館デジタルコレクション
*京都大学貴重資料デジタルアーカイブ

最後の奥付のページには、今の本と同じように版元=出版社(書林)が載っています。そこにはなんと、NHK大河ドラマ「べらぼう」に出てきた、里見浩太朗さん扮する「須原屋茂兵衛」と同じ屋号の名が!
茂兵衛の右2つの名前も一族で、須原屋が江戸で大変大きな勢力を持っていたことを感じました。
また、扉のページにある出版元を見ると江戸の「千錘房」。Wikipediaにある須原屋茂兵衛の家号「千鐘房」と名前が似てるけど、同じのように思われます♪

たしかに、京都やったら「炊く」て言うてるところを「煮る」て書いてあるもんなぁ。
「麻疹必用」が出版された文政年間は、もう少しすれば種痘が普及した時代でした。神がかり的なおまじないの世界で生きた、最後の時代だったと言えるかもしれません。
こちらで参考にした「麻疹必用」は、おまじないが半分以上の解説書でしたが、もちろん薬や治療中心に書かれたお医者さん専用の医学書もありました。ただし、それは種痘以上の効果のあるものでないことは間違いなかったでしょう。
5.まとめ
・麻疹の治療法とおまじない
江戸時代、麻疹にかからないようにするためには、「治療」なのか「おまじない」なのかわからないものがほとんどでした。例)掃除をする、香をたく、漢方的な薬効がありそうなものを摂る・入れて沐浴をする。
他に、「麦殿大明神」という麻疹の神様についての歌が書かれたタラヨウの葉っぱで身体を撫で、水で流すというおまじないを紹介しました。
麻疹に罹ってから食べても良いもの・食べてはいけないものが詳しく書かれており、見たところ身体にも良いもの悪いものが湧けられているように見えました。ただ、中には薬膳効果がありながらも消化の悪いものも入っており、本当に食べて良いのかわからないものがありました。
・疱瘡の治療法とおまじない
疱瘡にかかる前にすることとして、麻疹と同じく「掃除をして周りを清潔にする」ことなど紹介しました。また本中では、疱瘡の神様である痘瘡(疱瘡)神が家の中で暴れて感染させることが無いように、神を祀り魔除けの意味がある赤いものを供えることを勧めています。
疱瘡にかかってから気を付けることとして、麻疹と同じように疱瘡に罹ったとき食べても良いもの・いけないものが挙げられていますが、麻疹ほど重くとりあげられておらず、食べて良いものは麻疹よりかなり多いです。
「ミミズク・ホトトギス・兎」で邪気払いをする、というおまじないが紹介されています。これらの生き物は「陰鳥・陰獣=おとなしくて陰気だけれど、どこか秘密的な怖さ不気味さを持っているけだもの」と表現されています。怖くて不気味な生き物だけに、神秘的な力を持っていたと思われていたようです。
・「麻疹は命定め、痘瘡(天然痘)は見目定め」
この本によると、疱瘡より麻疹のほうが怖いと思われていたようです。麻疹は命に関わる病気、疱瘡は見た目に関わる病気という考えのことわざがありました。
江戸時代、疱瘡・麻疹の流行周期は、疱瘡3年・麻疹21年とされていました。子どものころにかからなかった大人が麻疹にかかると、重症になって亡くなる方も多かったということです。
疱瘡は致死率が高く、麻疹より軽い病気ではありませんでしたが、治ってからのあばた姿が酷かったため「痘瘡は見目定め」となったようです。
・参考文献
①「人類と感染症の歴史」 加藤重孝著
②「麻疹必用」
*もちろん薬や治療中心の医師の専門書もありましたが、種痘以上の効果は得られなかったと思われます。
江戸時代の治療法やおまじないは、疫病に有効な手段がない時のせいいっぱいの方策でした。しかしよく考えると少し前のコロナ禍のころ感染拡大に苦しんだ私たちも、江戸の同じころに存在していた「アマビエ」を持ち歩き、疫病退散を祈りましたよね。時代を超えても、考えることはそんなに変わらなかったということなのでしょう。

長い話となりましたが、麻疹や疱瘡に立ち向かった江戸時代の人たちを身近に感じていただけたかと思います。みなさんに楽しんでいただけたなら嬉しいです。
コメント