冬の間、特に1月2月はインフルエンザをはじめ、マイコプラズマ・コロナなどの感染症が猛威を振るう季節です。みなさん、罹っておられませんか?
この間かかったインフル、治ってきたのはいいんだけど、なんだか喉がかゆいような…
治りかけなんやな。咳が出てくるかもしれんなぁ。
あ~気持ち悪い!うがいして来よう。。
まなぶ君、どうやらのどの症状が残っているようですね。風邪のひき始めや治りかけの時の、喉のこんな状態を、京都ではおもしろい言葉を使って表現します。
それは「はしかい」。形容詞なんですよ。
喉がイガイガしたりかゆかったりする時に「のどがはしかい」て言うわ♪
この言葉には興味深い由来や、語れるストーリーがいくつもあるので、京ことばシリーズ第2弾として解説してみたいと思います。
京ことばシリーズを読むと、
・京都が好きな方のうんちくの1つとして使える。
・京都が好きな人へレアな情報を教えてあげることができる。
ので、是非最後まで読んでくださいね!かなりこだわりの強い記事となっております^^
1.風邪をひいたときによく使う言葉「はしかい」
①「はしかい」は京ことばの1つ。
私はよく小さい頃風邪を引いたのですが、こんなことを母に言われることが多かったです。
あんた、咳払いばっかりしてるなぁ。また風邪ひいたんか?
(「また」て…)え~なんか喉が変な感じ。
喉、はしかいのか?痛いのんか?
さて、この
「はしかい」
という言葉ですが、これはひと昔前まで使われていた京ことばなのです。京ことば辞典にちゃんと載っているんですよ。
皆さんは、聞かれたこと、あるいは使われたことはあるでしょうか?
というのも、この言葉は他の地方、特に関西の複数の地方で使われているようです。もちろん昔は京都が都だったので、京都発の言葉である可能性は大きいとは思います。
②「はしかい」の意味は?
では、「はしかい」とはどんな意味なのでしょうか?
「京ことば辞典」にはこう書かれています。
皮膚がチクチクと痛がゆい。 例)背中に何やら入ってハシカイ。
どうやら喉以外にも使われたようですが、う~ん、私は使ったことはなかったですねぇ。
話を戻しますが、つまり「喉がはしかい」というのは、
喉がなんとなく痛いようなかゆいような感覚
ということですね。そのまま治ればいいのですが、これが高じると咳が出てくる、という状態でしょうか。
そして辞典ではこう続きます。
稲麦の芒などが身体に触れる感じ。古語「ハシカ=芒」の形容詞化
「芒」とは、イネ科の麦とか稲とかのトゲトゲの部分のことです。
そう言うたら「芒」は「すすき」とも読むけど、すすきもイネ科でトゲトゲしてるやんなぁ。
「はしかい」は、「芒」を「はしか」と古語読みしたところに*1 「い」を付けて形容詞にしたもの*2 だということですね。
名詞の「赤」に「い」を付けて「赤い」っていうのとおんなじ感じかな?
*1 広辞苑「芒(はしか)」の項に「麦などの芒(のぎ)」とあります。
*2 京ことば辞典 p.199
2.似た言葉「はしこい」との関係
これに似た言葉で、「はしこい」という言葉があるのはご存じでしょうか?まだこれは全国的に残っているところがありますが、「はしかい」もこの「はしこい」と同じような意味に使われることがあったようです。
意味は、京ことば辞典の「はしかい」の項の2番目に「すばやい。機敏な」と説明されており、「はしこい」の項にも同じ意味が書かれています。意味だけ全部まとめて書いてみるとこうなります。
はしかい
①皮膚がチクチクと痛がゆい。稲麦の芒(のぎ)などが身体に触れる感じ。
②すばやい。機敏な
はしこい
①すばやい
②頭の回転が早い
ただし、これは古語の「捷(はし)=速い」に「かい」あるいは「こい」が付いたものと思われるので、1番目の意味の「はしかい」とは発生の仕方が違うようです。
また、徳島では「痛かゆい」に加えて「意地が悪い」とか、山口では「気が短い」という意味になるらしく、地方でいろいろあって面白いと思いますね♪
3.伝染病の「はしか」との関係は?
ここまで書いてきてこう思われた方も多いかと思いますがどうでしょう?
言葉が同じっていうのなら、伝染病の「はしか」とも何か関係があるんじゃないの?
それはとってもいい質問ですね♪
そう、「はしか」の語源こそが、この「はしかい」でした。昔、はしかは「赤もがさ」と言われましたが、江戸時代になって「はしか」や「麻疹」となったようです。*3
発疹ができると感じる「ヒリヒリ・チクチク」の感覚を「はしかい」の言葉で表したのでしょうね。
*3 はしかについて
4.今の京都では全く聞かない!
ただ、近年の京都では、「はしかい」も「はしこい」もほぼ聞くことがありません。てのひらサイズの機器からも常に標準語に触れる現代、また、学校でも標準語で話すよう指導されている子どもたちが大人になりつつありますから、ただでさえ少数の人たちの言葉となっていた京ことばが消えていくのも仕方ないかもしれません。
言葉は生き物やし変化は仕方ないのやけど、これも文化の一つやし、全く無くなるのは寂しいもんやなて思うわ。
5.まとめ
・風邪をひいたときによく使う言葉「はしかい」
①「はしかい」は京ことばの1つ。
ひと昔前まで使われていた京ことば。京ことば辞典にちゃんと載っています。
関西の複数の地方で使われているようなので、京都以外でも聞いたり使ったりしたことがある方がおられるかもしれません。しかし京都発の言葉である可能性は大きいかも。
②「はしかい」の意味は?
皮膚がチクチクと痛がゆいこと。
よって「喉がはしかい」とは「喉がなんとなく痛いようなかゆいような感覚」となります。
・似た言葉「はしこい」との関係
意味は「すばやい・機敏な」という意味で、「はしかい」もその意味で使われることがあります。
ただし、「捷し」という言葉に「かい・こい」を付けた構造になっており、発生の由来は違うところにあるようです。
・伝染病の「はしか」との関係は?
「はしか」の語源こそが「はしかい」でした。発疹ができてイガイガする状態をこの言葉で表したのかもしれません。
・今の京都では全く聞かない!
近年の京都では「はしかい」も「はしこい」もほとんど聞くことはありません。学校教育やネットで流れる言葉を聞くうちに、京ことばも廃れ忘れ去られてきていると思います。
さて、今回は「はしかい」という聞きなれない京ことばについて説明をしてきました。風邪気味の時など、京都ネタで楽しんでいただけたら嬉しいです。
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