京都のお盆行事は独特なものが多いですが、お盆についての記事はどれも相当マニアックになってまして、今回「その4」となりました。それほど京都のお盆は書きたいことが多く、自分でも困っています(笑)
今回は何を教えてくれるの?
いよいよ私らが行うお盆行事の最後、「おしょらい送り」のお話え。
ふーん、「おしょらい」は出てきたよね。「おしょらい送り」ってのは何するの? 面白いの?
これからゆっくり説明するわ♪ そやなぁ、仏さんも大変やなぁ、て思うことがあるわ笑
今回これを読むと
・京都の「おしょらい送り」とは何か?
・「おしょらい送り」をとっても急いで行わないといけない理由
がわかります。
ご先祖さんを急き立てるという行事そのものも面白いですが、その理由もとってもユニークなものなんですよ。これもお盆行事についての京都人の独特な考え方なので、京都通の方には是非知っておいていただきたいです!
もちろんこれらは他の地方でもされていることも多く、共通点もあるかもしれません。どこが同じでどこが違うかを考えながら読んでいただくと楽しいかもしれません。
1.「おしょらい送り」とは?
まずは京都のおしょらい送りについて説明しましょう。
①お盆の仕上げとして行う行事
お盆行事、順を追って並べてみると
・お盆前7日ごろ以降、おしょらいさん(先祖の霊)を迎える「おしょらい迎え」
・お盆の間13日~15日、仏様をお供えなどしておもてなし
そして
・16日にご先祖さんを浄土へお返しする行事を「おしょらい送り」と言います。
それでお盆で行うことが終わるので、お盆の総仕上げの行事となります。
②おしょらい送りはどこで行うか?
「おしょらい迎え」は特定のお寺や菩提寺で行いました(前記事参照)が、では「おしょらい送り」はどこでするのでしょうか。
昔はお供物を鴨川などの川に流すことで「おしょらい送り」としたようです。しかし鴨川にたくさんの人が流すとそれこそすごくゴミ化してしまいますよね。実際江戸時代には鴨川や堀川にゴミを投げ捨てる人が多く、川に流してはいけないというお達しが出ていたので、お供物を流す場としては適していなかったようです。
また昭和の半ばあたりまでは、お供物を持って行ってくれるお婆さんが来て、お駄賃をあげると処分してくれたみたいですね(緑紅叢書25)。
でも、そのような人たちもいなくなり、それ以降は、おしょらい送りの場・お供物を納める場所を京都市が定めるようになりました。
お寺以外にも、通りの四辻や学区の集会所、公園などが選ばれているようですね。
私の住んでる上京区はお寺が多いし、お寺に行く時そこで拝んでる人が多いと思うわ。
ちなみに私の家はお寺に行き水塔婆を書いてもらい、お線香とろうそくに火を点けて手を合わせお見送りします。
そして仕上げに送り鐘を衝いて帰ります。
そして16日夜には大文字の送り火を見ながらおしょらいさんに別れを告げます。
昔は送り火を玄関先を焚いたところもあったようですが、大火の多かった京都の街中では、昔であっても派手に火を点けるのはなかなか難しかったでしょう。
お寺以外に持って行かはるところは、大文字送り火が「おしょらい送り」のタイミングになるのやろなぁ。
③「お供物」はなぜ持って行く?
さてこのお供物、どうして家で処分しないのか?不思議だと思いませんか?
そこで3つ理由を考えました。私の考えですが、今まで行事を行ってきて多分そうだろうなと思うことを書いてみます。
1)あくまで「お供えであり、ゴミではない」ということを示すため。
家ならごみ収集に出しますが、そうなるとこれは単なるごみとなります。「お供物をゴミ扱いしたくない」思いから、違う収集場所が必要となったのでは。
結局おんなじところに集められて処理されるのやけど、これは気持ちの問題ていうことやなぁ。
2)浄土までのお土産とするため。
残ったお供えをすべて残らず入れたものを、極楽浄土に帰られる仏様にお弁当として持ち帰っていただくという気持ちを表したのかもしれません。
私も母親から「仏さんのお弁当」て聞かされてたえ。
3)法界の仏さまは「一人残らず」帰ってもらうため。
常に飢えている無縁仏さんに全員帰ってもらうため、お供えはすべて外へ持って行き、お帰りを促したのかもしれません!
2.おしょらいさんを急いで送らなければならない切実な理由
さぁそして、いよいよ「おしょらい送り」を急いでする理由について説明しましょう。「おしょらい送り」には昔からある言い伝えが。
①もしおしょらい送りが遅れたら?!
また、最後のお膳はろうそくの火が消えたらすぐに降ろして包み始めます。せっかく最後のお食事なのにそんなに急き立てていいの?と思いますよね。
お供物をまとめてお寺に行くわけですが、その時間は「できるだけ午前中の早い時間がよい」と言われています。
なぜかというと、早く帰らなければ、なんとおしょらいさんは
他の仏さまの家来になってしまう…
のです!
京都の郷土史家である田中緑紅さんの著作集「緑紅叢書」には2か所、このように書かれています。
この朝は精霊が帰られるのでなるべく早く用意し、送りダンゴも早朝に供えます。遅くなると他家の仏様の供物持にされるから早く送り出すのだと云います。…
緑紅叢書25 京のお盆と盆踊り1959(昭和34年)
此お団子を供へます時間がおくれますと、ハサン箱持ち*にされると云うので特に早く起きて此お供物をするのであります。…
*ハサン箱持ち …「ハサン」とはおそらく「破産」のこと、「箱持ち」は「供物の入った箱を持つ家来」のことかと。
緑紅叢書4 京の送火 大文字 1957(昭和32年)
しかし今は、朝早くと言っても一般の仕事の開始時刻あたりが精いっぱいです。昔はほとんどのお店が早朝からやっていたのですが、今は早くて8時ごろとなり早朝は不可能となっています。まぁどこのお店も早くないのでそれだけで他から出遅れることはないですが、昔のスピードを知っている身としてはどうも納得しづらいですね。
②きゅうりの馬とおナスの牛は作らない!
みなさんは「きゅうりの馬」と「おなすの牛」をご存じですか?これはお盆のお供えの1つですが、「きゅうりの馬に乗って少しでも早く来ていただき、おなすの牛に乗り少しでも遅くお帰りになってほしい」という願いがこもっています。
しかし京都では後半部分の「少しでも遅くお帰りになってほしい」という部分が合わないのです。京都は「早く来て、そして早く帰っていただく」のをよしとしています。それは前章にも書きましたが「帰るのが遅くなったら、ご先祖さんが他のお家の家来になってしまうから」でしたね。
亡くなった父も母も少しでも一緒にいたいとは思いますが、遅れればあちらでひどい目に遭うかもしれないと思ったら、頑張って急いで見送らないといけません。今のところ他の地方で同じようなところを知らないのですが、どうでしょうか?
③本当の理由を推測してみる。
しかしこれはあくまで宗教的な考え方です。現実としてもこのほうが良かったのか?ちょっと考えてみましょう。
昔はお盆と言えば15日と16日しかありませんでした。たとえ13日からお膳のお供えがあっても、生きている人間が休めるのは2日間だけです。やっぱりちょっとでもゆっくりして美味しいものを食べたいですよねぇ。
私の家も以前はそうでしたが、お盆の間は精進潔斎で肉魚お酒は一切口にしてはいけませんでした。なので16日の夜までお盆だとちょっと困ったのかなぁと思います。
おかずはみんな仏様のお膳と一緒。食べ盛りのときはつらかった…
16日はできるだけ早くお盆を終了させて、肉魚お酒を解禁したかったのかも…実際16日夜は大文字送り火を見ながら「精進落とし」としてご馳走をみんなでいただいていました。
ご先祖さんを早く見送って、法界の仏様も追い出し、さっぱりしたところで今度は人間の宴会です笑
なので、生きている人間にとっても早く送るのは都合がよかったでしょう。今はお盆の最初からずっと毎日ご馳走続きなので、お盆の意味も薄れてしまったなぁと思う今日このごろです。また、翌日からの仕事のためにも早め早めが良いのかもしれません。
「おしょらい送り」を済ませた後は「大文字送り火」で仏様を見送ります。それはまた次の記事で解説しますね♪
3.まとめ
・「おしょらい送り」とは?
16日にご先祖さんを浄土へお返しする行事を「おしょらい送り」と言います。これでお盆で行うことが終わるので、お盆の総仕上げの行事となります。
昔は鴨川や堀川に流していたのですが、お上から廃棄の禁止令が出たりしてやらなくなりました。その後お供物を集めてくれる人がいた時期もあったけれどそれもなくなっています。
今は京都市が場所を決めてお供物を集めています。京都市内に多いお寺や四辻、公的な施設が指定されることが多いです。
お供物はなぜ家で処分しないのか?毎年している私が推測するに
1)「お供えであり、ゴミではない」ということを示すため。
2)浄土(あの世)へ帰るまでのお土産とするため。
3)いてもらっては困る「法界の仏さま」に「一人残らず」帰ってもらうため。
ということが考えられます。
・おしょらいさんを急いで送らなければならない切実な理由
京都の「おしょらい送り」はとにかく急いで送り出さないといけません。なぜなら、もし「おしょらい送り」が遅れたら、ご先祖さんが他の霊の家来になってしまうという言い伝えがあるからなのです。
なので、よく他の家庭で作る「きゅうりの馬・おなすの牛」のうち、ゆっくりと帰っていただきたいと思って作る「おなすの牛」は必要ありません。
しかし現実的に考えてみると、精進潔斎しないといけないお盆を早く終えたかったのかも。16日の夜にはいつも「精進落とし」と言ってみんなでご馳走を食べました。
潔斎したからこそのご馳走のおいしさを味わうため、また翌日の仕事準備のためにもご先祖さんは早めに帰ってもらいたかった、のでしょうか…
以上、今回は京都の「おしょらい送り」の意味と、ご先祖様に早く帰ってもらわないといけない理由を説明いたしました。
京都の習わし事に興味のある方のお役に立てると嬉しいです。関連の大文字送り火についても見てみてくださいね!
*お盆シリーズ ~京都通なら知っておきたい京都のお盆・その4~ の前の記事はこちら。
*次の記事はこちら。
*番外編:やってみたい方・研究者向け
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