京都には京都特有のおかずを販売したり、イートインできたりする「おばんざい」屋さんがたくさんありますが、そこで「〇〇の炊いたん」というメニューをよく見ますね。
私は小さいころから聞いてるのでこれが普通と思ってますが、最初にこれを聞いた方は「なんてテキトーな名前の付け方!」って思ったりされるみたいですね。また、この読みが「タイタン」とカタカナ読みのほうに、意味を取り違えて聞いてしまう人もいるかと思います。
そこで今回はこの「炊いたん」という京ことばについて詳しく、また近くの言葉である大阪弁とも比べながら説明してみました。これがまた、京都人と大阪人の気質差も垣間見えて面白いんです。
これを読めば、「おばんざい」屋さんに行ったとき「炊いたん」を面白がる友達に、ちょっとした京都通の知識として話ができるようになりますよ♪
1.外国人も注目する「炊いたん」?
最近こんなツイートがバズってたのを目にしました。
職場の近くの弁当屋さんでメニュー聞いたら「ピーマンの肉詰め、大根と鶏肉の炊いたん、...」のところで後ろにいた慣れてなさそうな外国人の人が「Titan...?」ってなってて耐えられなかった
— 破廉恥ポリマー (@manaita_takumi) November 28, 2023
これ見て私も吹きました(笑)外国人の方、びっくりしたでしょうね!何を連想したんでしょう?巨人族?ひょっとして土星の衛星?土星のまわりに大根と鶏肉が回ってるところだったりして(笑)
「あ~京都のおかずもいよいよ原語のまま国際化するのかなぁ」って(笑)「Karaoke」「Sushi」「Taitan」みたいに。ただ、ローマ字どおりより、ウケ狙いできる「Titan」がいいですかね。
このツイートのコメでも「京都弁のアクセントだと完全にTitanなんですわ」て言うたはるように最初の「タ」が一番高い音になるし、まさにTitan(笑)
2.そもそも「炊いたん」とは何?
「~たん」には2種類ありますが、まずそれを紹介して次の章で詳しく説明したいと思います。
①「~したもの」の意味
「もの」が「もん」になり、「ん」に縮まった形となります。
大根の炊いたもの → 大根の炊いたもん → 大根の炊いたん
というような変化ですね。「炊いたもの」では「炊いた」+「もの」というように、2つの言葉を足したものとなっていますが、「炊いたん」では連結しただけでなく1語となっています。
②「~したの(です)」と過去の動作を伝える言い方
「~したん」に「です」を加えると意味がわかりやすいですね。京都では身近な人に「~したん」と言い切って過去の動作を伝えます。名詞ではありません。
昨日は大根炊いたん。
語尾を上げると疑問文ですね。
昨日は何してたん?
お寺参り行ってたん。
おかずの「炊いたん」は①のほうですが、せっかくなので、この①②の両方とももう少し詳しく解説しますね。そして、同じ近畿の言葉である大阪弁とも比べながら深堀りしてみましょう。大阪はお隣さんですが、やっぱりちょっと違うんですよね。
3.①の説明 「~したもの」を意味する「~たん」と大阪弁との比較
①英語では「one」と「過去動詞(分詞)」で表現できる
まず「炊いたん」を例に挙げましたが、「~たん」のつく言葉を京都の人間はいろんなものに使っています。
お料理系では「焼いたん」「炒めたん」「揚げたん」「蒸したん」「混ぜたん」…
ちなみに、「煮る」は使わへんかったので「煮たん」も京ことばにはあらへんのん。
それ以外でも「曲げたん」「拾たん(拾ったの小さい「っ」は使いません)」「買うたん」…etc.
要するに、動詞の過去形のあとに「ん」を付けたらなんでもいけます。これは②のほうも同じですね。
この「~たん」は、英語では「one」と「過去動詞(過去分詞)」で表現できます。英語で表した方が形がわかりやすいかもしれません。
ということで、「曲げたもの」→「曲げたん」と、「拾ったもの」→「拾たん」を英訳してみましょう。
・曲げたん
・拾たん
*訳はDeepL翻訳を使用しています。
②大阪の人はなんて言う?
長年京都に住んでいると大阪弁もよく聞きますが、大阪の人は「炊いたん」という言葉、あんまり言いませんね。
また京都でも最近は使わない傾向だったんですが、「おばんざい」ブームが来てからは復活したようなところがあります。
「おばんざい」という言葉は京都人は使わへんし、あんまり好きやない。
そやけど、「炊いたん」を使てもらえるていうのは嬉しいなぁ♪
では、大阪の人はなんと言うか?なかなか難しいところです。言葉というのはたえず揺れ動いているので、ぴったり「これ!」という言葉が出てきません。
「炊いたもん」「炊いたやつ」?そういう言い方もありますが、料理名は普通に「〇〇と〇〇の煮物」って言ってるような気がします。大阪の方が都会ですから、大阪弁が標準語に影響される部分が大きいような気がします。大阪の方、どうですか?
4.②の説明 「~したん(です)」の「~たん」と大阪弁の違い
今回の「炊いたん」の説明からは少し外れますが、②の使い方、「~したの(です)」を意味する「~たん」のほうも少し説明しておきましょう。
こちらも「~したん」と「たん」を使いますが、「です」を加えると、普通にどこでも話す表現となります。でも、この「です」を取った形は関西特有ですよね。またこれも、京都と大阪では表現方法が少し違うようです。
標準語では「今日は大根を煮たの。」と言う場合を京都・大阪と比べてみましょう。
今日は大根炊いたん♪
今日は大根炊いてん!
京ことばでは「~たん」と「ア段」を使い、大阪弁は主に「~てん」で「エ段」で終わる言い方になります(最近はこっち使う京都人が増えてますが)。
これは大変京都らしさ・大阪らしさを表しているように私は思えるのです。
どういうことかというと、まず、京ことばでは、「た」のところで大きく口を開けるとちょっと顔が上向きになり、そのあと「ん」で口をふさいでうなずくような形になります。
すると、なんとなく上から見ているような印象になり、たいそうな言い方をすれば、これがまた京都人の「お高くとまっている」感じを醸し出してしまうのではないか、と思ってしまうのです(京都の方、京都人が言ってるし許してネ)。
一方、大阪弁の最後の「ん」は軽く言い添えるだけなので、フランス語の鼻母音みたいな感じでほぼ鼻の中だけで音を出してます。なので言い終わりは、「ん」の前の「て」→「エ段」になります。
なので、口がエ段の形で終わっているので口角が上がり、口はある程度開いていて、笑っているような表情となるはず。
だから大阪弁でしゃべると陽気なイメージがあるというのは、こういう見かけのところからも来てるのではないかと、私はひそかに思っているのです。
もちろんこれは私が思っているだけのことなので、一般論ではないことをご了承ください~
5.なぜ「炊いたん」がなぜおかずの名前となったのか?
ここ10年ほどで復活し普及した「炊いたん」という言い方。はっきりものを言わず品格を重視する京都にしては、材料を並べただけのお料理名は見た目のままだし雅ではありません。
そもそも、今では普通に知られるようになった「炊いたん」は、どうしてこんな言い方をするようになったのでしょうか。
これは、「炊いたん」といわれるおかずが庶民のメニューだったから、というのが答えかなと思います。
普通に毎日食べる身内のおかずなので、炊いたものの材料と料理法がわかればよいのです。一般の京都人だけで通用したらいい生活の言葉なので、雅さは必要なかったんですね。
一方、大阪ですら言わない表現(昔はあったかもしれないが)であることから、「~たん」を使った料理名は他地方の人には耳新しい言葉として受け取られました。
雅ではないけれど「京都らしさ」を感じられる言葉なので、京都のおかずを出すお店がそのネーミングを使い、知れ渡るようになった。
以上京ことばの「炊いたん」を深堀してみました。参考になれば嬉しいです。
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