節分が近づいてくると、京都でもみんな豆を買い、準備を始めます。
節分にはさまざまな行事や風習がありますが、みなさんは京都しかやっていない習わしをご存じでしょうか?というか、京都でもごくわずかのお家に残っているだけで、今はほとんど行われなくなっているものがあるのです。
これを京都通の方にお話しすると驚かれますから、京都に興味のある方に是非知っていただきたいと思います!まずは一般的なことを先に書いていますので、すぐ知りたい方は2.から読んでください♪
1.一般的な節分行事って?
みなさんは、節分に何をされますか?
節分とは、立春の前日。「立春」という「新年」を迎える前に、穢れを取り払い清らかな身となろう、という節目の日です。なので基本厄払いをすることがメインとなりますね。
ということで行うことは、たとえば
・家で豆まきをする。
・神社に行って厄払いの行事を見てくる。
というのは伝統的な行事となりますし、また、
・恵方巻(巻き寿司)を食べる。
のは最近全国に広まった大阪発の行事ですね。
どちらかというと、豆を買ったり、豆まきをする人は減ってきて、恵方巻を食べる人の方が多かったりするかもしれません。
京都でも節分になればスーパーに、これでもか、というほどの巻きずしが並びます。こんなふうになったのはここ20年くらいのことでしょうか。
京都での伝統的な行事では、神社仏閣が多いことから豆まきや鬼払いの行事を見たり豆をもらったり、奉納狂言を見たりとかいうことが多いようです。
しかしここでは特に、よそでは見たことないような京都の節分行事についてご紹介していきます。
あ、僕知ってるよ。
イワシの頭が必要なんだよね!
あ~そういうのも古いお家でやったはるけど、
全国にあるのとちゃうかな?
もっと珍しいのがあるのんえ。
京都以外でも行われている古い習わしには、こんなものもありますよ。
2.豆のおひねりを「後ろへ」放り投げる!
それは、「豆を包んでおひねりにして、自分の後ろへ投げる!」といった厄払いのおまじないですが、なさったこと、あるいはご覧になったことはあるでしょうか?
これは、今では京都でもごくわずかの家にしか残っていない習わしなのです。
投げることで厄払いをするのは豆まきと同じですが、これは「おひねりを作る」ところと「後ろに投げる」ところが大きな特徴です。そして投げる前に行うことも変わっています。
ではやり方を順番に説明しましょう。
①その年になる年齢の数の豆を用意する。
その年になる年齢の豆を数えておきます。その年になる年齢なので、生まれたてでも1個です。そういう意味では数え年みたいな感じなのですが、満年齢で5歳になっている子もその年のうちに5歳になる現在4歳の子も、豆の数は5つとして数えます。
数え年で数えているお家もあったかもしれませんが、ひょっとするとうちの家としては、去年の数え年として数えていたかもしれません。新年の前に前年の厄を落として新しい年を迎えるのがこのおまじないの意味だからです。
なので、「去年の数え年」と考えてもいいですが、数は「今年になる年齢」と同じなので、こちらで覚えておいた方がわかりやすいです。これは0才でも25才でも同じです。
去年になった年 | 0才 | 25才 |
去年の数え年 | 1才 | 26才 |
今年になる年 | 1才 | 26才 |
今年の数え年 | 2才 | 27才 |
②半紙に包んでおひねりを作る。
半紙に豆を乗せ、包んでねじり、「おひねり」を作ります。
私の父は90代までいたけど、90才になってからの豆は、一枚の半紙では包めんようになってしもて大変やった!
わぁ大変そうだね!逆に赤ちゃんも大変かも。
そやなぁ。2粒包むのは難しかったわ!
③その年の恵方に向く。
その年の恵方はどちらかを調べ、おひねりを持って恵方に向きます。以前は高島暦のこよみを調べるぐらいしかできませんでしたが、今はネットですぐわかりますね。
ちなみに2024年は東北東のやや東寄りとなっているので、真東を向いてほんの少し北寄りにすればよいかと思います。
④おひねりで身体をさする。
そのおひねりで頭から順番に神様にお願いしたい身体の部分をさすっていきます。
その時、たとえば「頭が痛くなりませんように…」とか言いながらさすります。それを頭の先から足の先まで行います。口に出しても良いし、心の中で唱えてもOKです。
でもみんなでワイワイ言いながらするのも楽しいですよ!実家では、それぞれの家族がうるさいくらい大きな声を出していました(笑)
⑤後ろにポンと投げる。
足の先までできたら、恵方を向いたまま、そのおひねりを頭越しに後ろにポンと投げます。
ただ下にポトンと落とすのではなく、頭の上を通るようにして後ろ向けに投げます。頭の上をおひねりが円弧状に飛ぶ感覚ですね。これで厄払いができたことになります。
ただそのあと厳密には、「後ろを見ないようにしておひねりを拾う」ということになっています。せっかく落ちた厄をまた付けてしまうことになると言われるのですが、これはもう変なところに投げてしまったら不可能なので「できたらそうする」「忘れなかったら(?!)そうする」程度にやってました。はい、ええ加減でやってこそ長続きします!
⑥半紙に包み名前等書く。
半紙に包みなおし、表面に生年月日・名前・年齢を書きます。これを神社へ持っていくのですが、名前が人に見られるのがいやな場合、更に紙や袋で包みます。
年齢は、神社では一般的に数え年を書くことになっているので、私もそのようにしています。
⑦豆を納める。
神社(できれば氏神さん)へ行き、お豆を納めます。
我が家の氏神さん・北野天満宮には、本殿前に豆入れが設置されています。少ないですが毎年必ず豆が入っており、納めに来る人がいるのがわかります。
ただ、丁寧に何重にも包まれているのでどなたがされているのかは不明、ましてや我が家でやっているような習わしをした後納めているのかは知る由もありません。
ここにある豆さんは厄落としをしたあとの豆。
厄がついたらあかんさかいに、触ったらあきまへんえ。
⑧豆を食べる
付け足しですが、納めた豆とは別に「年を取るため」に、豆を年の数だけ食べます。「年を取る」ためなので、豆は今年の数え年の数を食べます。今年26才になる人は、現在25才でも27個食べることになります。
年がいってくると、今の年齢+2個食べないといけなくなったりするので、数える時すごくメンタルに堪えますね(笑)
ただし、例えば60個食べないといけない58才の人は、60個は無理なので(大丈夫な人もいるかもしれないけど)、我が家では60をバラバラにして
6+0=6
として6個だけ食べたらいいというルールにしてました!これなら大丈夫です!
年いってからぎょうさん豆さん食べて
喉詰まってしもたらえらいことになるえ!
3.この風習のルーツがすごすぎた!
この風習はうちだけのものだとずっと思っていたのですが、調べてみると大変面白いことがわかったのでご紹介します♪
①京都の古い家で行われている例
着付けを習っていた毛利ゆき子先生の御宅でされていることを聞いたことから、古いお家では残っているのかもしれないと思い、心当たりの方に聞いてみました。
すると、100年以上続く西陣織の織元さん、また裏千家の教授の方もお家でされていることがわかりました。これはもう少しいろんな方に聞いてみようと思っています。
ところで、毛利先生は西陣織会館にある西陣和装学院の学長ですが、着物についてのご本も書いておられます。その中にこの風習について触れられている部分があるのでご紹介しましょう。
おばあちゃんは「足が痛うならんように」、お母ちゃんは「家中が仲良く、元気で暮らせますように」と、家族みんなが思い思いの願いを託しながら「西の海へさらり」と言いながら頭の上を越してポイと後ろに放ります。
「京都西陣 きもの町」毛利ゆき子著 p.16「豆まき」
「西の海へさらり」という文句は、私の家では使わず無言で行っていますが、この言葉についても調べてみました。すると、江戸後期にこのようなことを言いながら厄払いをする行事があったようです。
あぁらめでたいなめでたいな… いかなる悪魔が来るとも此厄はらひがひつとらへ西の海とはおもへどもちりらが沖へさらり
「近世風俗志」喜多川森貞著(天保8=1837年~)
京都だけでなく大阪や江戸でも行われており、お金を出せばその厄払いに使った豆を引き取ってくれる門付け芸人さんがいたようです。ひょっとしたら、こういった人たちがいなくなったので、神社やお寺に持っていくようになったのかもしれないですね。
②皇室で行われていた?!
さらに調べていくうちに、驚くべきことがわかりました。戦前は皇族だった久邇邦明さんという方が書かれた本の中に、この習わしがあったのです!
…半紙のような紙に年齢に一つ足した数を包み、それで体を擦る。きっと「鬼は外」で、身体の悪いものを摂るというおまじないなのだろう。擦った後、その豆が入った紙包みを後ろに放る。
「少年皇族の見た戦争」久邇邦明著 p.54
ということは、これは皇室の習わしだったということが推測されますね。昔は御所とお付き合いのあった町衆も数多くいたでしょうし、自然と宮中で行われていることが漏れ聞こえてきて、皆が真似をしたのかもしれません。豆の数え方は伝わっていくうちに変わっていったのでしょうね。
天皇さんが東京に行かはってちょっと経つさかいに
みながせんようになってしもたんやけど、
雅びな習わしやし続いてほしいわぁ。
4.まとめ
1.一般的な節分行事とは
立春という「新年」を迎えるため、前年の穢れを取り去る行事です。
例えば
・家で豆まきをする。
・神社に行って厄払いの行事を見てくる。
・恵方巻(巻き寿司)を食べる
などがあり、恵方巻は豆まきよりも行う人がふえているかもしれません。
2.豆のおひねりを「後ろへ」放り投げる!
去年の数え年の数だけ半紙に包んだおひねりを作り、身体をさすって健康をお祈りします。
その後、後ろ向けに頭越しにおひねりを投げて厄落としをし、神社(氏神)に納めてきます。
豆まきは普通前に投げますが、後ろ向きに投げるのはたぶんこのやり方だけだと思うので、本当に珍しい習わしといえるでしょう。
3.この風習のルーツがすごすぎた!
昔から京都に住んでいる人たちが行っていますが、これはもう、ほとんどする人も無くなった珍しい習わしです。
昔、皇室でこの行事を行っていたことが、元皇族の方の本に書かれていることでわかりました。いつしか一般の京都の人に広まっていったものと思われます。
広まったのはひょっとしたら、御所に近い上京の人が多かったかもしれんねぇ。
御所に出入りする商人もいたし、宮中の真似するのがステータスやったかも。
何気ない習わしにも深い歴史が刻み込まれていることがわかりました。今年も忘れずこれで厄落としをしようと思います。皆さんも一度なさってみてはいかがでしょうか?
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