紅葉が綺麗やな~とか言っているうちに、あっという間に12月、年末に突入します。月初から、クリスマス商戦は早やたけなわになる頃ですが、京都では昔からこの時期になると行うおまじないがありました。
それは「12月12日のおまじない」です。さてこれはどんなおまじないなのでしょうか?また、どんな効き目があるのでしょうか?今や京都に住んでいてもほとんどの人が知らないこのおまじないについて、実際にやっていた私がご説明いたします♪これを知ってると、かなりの京都通ですよ!
1.「十二月十二日」のおまじないとは?
これは、「十二月十二日」と書いた紙を、玄関近い壁に貼り付けて「泥棒除け」とするおまじないです。
行われてきたのは京都だけ、ということではなさそうなのですが、私の知る限り、近畿地方以外では聞いたことがありません。しかし発祥は、このおまじないが起こった理由から考えて京都だと思われるので、やはり京都のおまじないと考えてよさそうです。
2.おまじないはどうやってするの?
スマホ程度の大きさの紙に「十二月十二日」と書いて、それを壁に貼り付けます。
しかししかし、これにはいろいろとややこしい決まりがあるのです…並べてみましょうね。
①12才の女の子が書く。
②12月12日に書く。
③さかさまに貼る。
一見「なんだこの呪いのようなきまりは…」と思われるかもしれませんね(笑)ちょっと思い浮かんだのが「丑の刻参り」。「必ず丑の刻に」「人に見られてはいけない」とか、いろいろと細かいきまりがあったかと…
しかしこれは呪いではないのでご安心ください!ではそれぞれ説明していきますね。
①12才の女の子が書く
これは必ず12才の女の子が書きます。母から聞いた時は、満年齢か数え年かは特に指定はなかったように思います。
そして、この条件をもっと厳密に言う方は「12月12日生まれの12才の女の子」と限定されることもあります。もうこうなると妖術に近いのではないかと思ってしまいますね!
②12月12日に書く
これは、12月12日が何の日かを知らないといけません。実はこの日は、信長や秀吉がいた頃の大泥棒・石川五右衛門が鴨川の三条河原で処刑された日だったのです。
最初に、このおまじないは「泥棒除け」と説明しましたが、この日にちが効き目に関わっているわけですね。つまり、もしどろぼうがこれを目にした時、石川五右衛門が処刑されたことを連想し盗みに入ることを断念するだろう、と。
まぁかなり楽観的な見通しによる泥棒封じではありますが、昔の人たちはこの数字の魔力に賭けたわけです。さらにこの「12」という数字が重なっていくことで希少性を上げ、魔力を強めたのではないでしょうか。
そして実はなんと、私も12才の12月12日に書かされました♪おこた(こたつ)でボーっとみかんを食べてる私のところに母が来たかと思うと、
(硯と紙を置いて)さ、今日は12月12日やさかいにな。
はい、これに「十二月十二日」て書きよし。
なにこれ?日にち書いてどうするのん?
どろぼう除けのおまじないや。あんたが今日書かなあかんのん。
今日でないとあかんのや。ほれ、早よ書きよし!
え~今書くのん?おみかん食べてたのに~
はいはい、手ぇ拭いて、墨擦って、ここに漢数字で書くのんえ!
紙の向きは縦!
意味も分からず書かされる私でした。それも1枚だけではありません。何枚も書いたものを母は見比べて数枚選び出しました。面倒なことやらされて、私もよく言うことを聞いたものです。
③さかさまに貼る
さて、選んだ紙をどうしたか。壁にさかさまに貼ったのです。なぜさかさまか?
これは石川五右衛門が、熱湯が沸いた大きな釜に、逆さまに入れて処刑された(酷!)、ということからなのだそうです。
でも、子どもと一緒という説もありますよね。歌舞伎などでも子どもを持ちあがるシーンとかありましたけど、さかさまの根拠もあくまで言い伝えなのです。
え~そやけど、日にちだけ見て五右衛門を思い出せるのん~?
もう一つの説としては、泥棒は上(天井裏)から入ってくるから、さかさまに貼っておくほうが読みやすい、なんてのもあります。
そんなん上から入ってくるて限らへんやん!
しかし昔の人もいろいろ考えますねぇ(笑)
3.さかさまにするおまじない例
ただ、「さかさまにする」ことによって、とても目を引くことはあります。外を歩いているとき、さかさまに設置してある看板を見たことが何度かありますが、あれはわざとさかさまにして目立つようにしていますよね。
そんなふうに、さかさまには何らかの力があると昔の人も思ったのかも知れません。そこで、おまじないで、さかさまにしたり貼ったりする例が他にもあるのか探してみましたよ。
①逆さほうき
ほうきをさかさまに立てておくと、いやな来客を帰らせることができる、というおまじないです。京都で行われるおまじないですが、サザエさんでもそんなシーンが出てきたと、他のサイトにありました。
これも「さかさまにする」ことで効力を発揮するおまじないでした。
小さいころ長居しているお客さんがいると、母がやってたのを真似して隣の部屋でほうきをさかさまに立てました。そして上には手ぬぐいをかけるのですが、これも意味不明です。私はパイル地のタオルにしてましたが、まぁそのへんは適当です。
しかし大事なことは、うっかりほうきを倒さないこと!なぜって、気付かれたら大変!昔はみんな知ってましたからね(笑)
今は畳の部屋も少ないので、部屋用のほうきがあるところも少なく、今するならフローリングワイパーのようなものでしょうか?う~ん、ちょっと趣がないですかねぇ…
また、部屋の仕切りもふすまなどで厚い壁ではなかったですから、相手に知られる確率も高かったでしょう。しかしそれを狙っていたようなところもあるという、絶妙な距離感がこのおまじないを面白くしていたように思います。
②「茶」の字をさかさまに貼り、虫よけにする
「茶」という字を紙に書いてそれを逆さまに貼り、ムカデなどの虫除けとします。
これは京都ではなく、お茶の産地で行われているようです。ここでもなぜか「さかさま」が威力を発揮するんですね。
しかし私が考える「虫」の中にはムカデはなかったですが、ムカデは気持ち悪くて噛んだりもするようですし、ムカデ駆除は大事だったんでしょうね。お茶はムカデが嫌いなものということから、このようなおまじないができたみたいですが、残念ながら実際には効果がないようですよ。
この伝承の元となったのは、「ムカデにお茶をかけたら死んだ」という江戸時代のエピソード。お茶の渋み(カテキン)がムカデを弱らせるという説もありますが、熱湯をかければ大抵の虫は死んでしまうことでしょう。残念ながら、お茶の防虫効果の根拠になるとは言えません。
「大井川茶園 公式ブログ」より
③歌をさかさまに貼り、虫よけにする
歌を書いてそれをお風呂やトイレなど水回りにさかさまに貼ると、やっぱりこれも「虫よけ」になるというおまじない。現代ではなく、江戸時代にあったもののようです。
「ちはやぶる卯月八日は吉日よ、神下虫(かみさげむし)を成敗ぞする」
「神下虫」とは、うじ虫のこと。お釈迦様の誕生日、4月8日の花まつりに出る甘茶で墨を磨り、この歌を書くそうです。お釈迦様の威力で虫退治ができるのかと思うのですが、やはりさかさまに貼らないといけないようですね。
三代目歌川豊国の浮世絵「卯の花月」の中に、この歌がさかさまに貼られているのが描かれています。右では読める向きにして大きくしました。
でもあれ?なぜか「虫」の字だけが向きが違う。貼ってから虫の字を忘れたことに気づいて、あとで正しい向きで書き足してしまったとか?理由を知りたいですね!
4.さかさまにすると効き目がある理由はこれ?
いろいろ調べていくうちに、中国の習わしにたどり着きました。それがもとになっているのではないかと思われるのです。
中国では「福」という字を書いて逆さまに貼ると、福がやってくることを意味するのだそうです。
さかさまは中国語でも「倒」の字を使います。それを同じ音の「到」に読み替えたら「到る」を意味することとなり、それが「福の到来」を表せるのだということでした。でも虫や泥棒は「到来」されたら困りますよね。
う~ん、京都の人は「さかさまにすると反対になって、悪いことがええことに転じる」て思わはったんとちゃうやろか。
そのあたりはっきりしませんが、答えは遠くないと思うのです。
5.火事除けに効く?さかさまにしない?
これだけさかさまさかさま、て言っておいて何ですが、実は実家の「十二月十二日」はこんな風に貼ってます。
はい、さかさまではないのです。母はこう言ってました。
こんな貧乏な家、泥棒入っても盗るもんないやろ?
これな、このまま貼ったら火事除けになるて言うのんえ。
(え、さかさまにしやへんの?火事除けってあるの?
…ほんまかいな💦)
ずっと疑問に思っていたのですが、これを書くにあたりネットで調べてみたら、「火事除け」、ありましたよ!
関東や近畿にも「十二月十二日水」とか「十二月十二日火の用心」とか書いて、火事除けにする習わしがあるようです。ただ、母が言っていたのは口から出まかせではなかったものの、どれも「さかさま」にするのでした。
特に、山形県にある梨郷(りんご)神社では、火災除け・盗難除けとして十二月十二日のさかさ札を授与されてます。
こちらのお札は、わざわざさかさまに貼らずともよいように、最初から逆に書いてありますね。
なんか知らんけど親切な感じがする(笑)
(写真をクリックすると梨郷神社のインスタへ飛びます。)
6.まとめ
①「十二月十二日」のおまじないとは?
「十二月十二日」と書いた紙を、玄関近い壁に貼り付けて「泥棒除け」とするおまじないです。
②おまじないはどうやってするのか?
スマホ程度の大きさの紙に「十二月十二日」と書いて、それを壁に貼り付けます。他に以下の決まりがあります。
・12才の女の子が書く。
・12月12日に書く。
・さかさまに貼る。
③さかさまにするおまじない例として、以下の3つを説明しました。
・さかさほうき
・「茶」の字を逆さまに貼って虫よけ
・歌をさかさまに貼って虫よけ
④さかさまにすると効き目がある理由。
中国で行われている習わしが元になっているのではないかと思われます。「福」という字を書いて逆さまに貼ると福がやってくるという習わしです。
中国語でも さかさま=倒、それを同じ音の「到」に読み替えたら「到る」を意味することとなり、それが「福の到来」を表すのですが、ここでは反対にすることで「悪いこと→良いこと」に転ずる意味を持たせたのかもしれません。
⑤「十二月十二日」は火事除けにも効く。
私は母から「さかさまにしなければ火事除け」と聞いていましたが、調べた結果はすべてさかさまに貼って火事除けにもするものでした。
以上京都で昔からあった「十二月十二日」の泥棒除けのお札について説明いたしました。皆さんの参考にしていただければ嬉しいです。
なお、今の自宅にあるお札はこちら!
興味のある方、面白いなと思われた方、今年はやってみませんか(笑)
自分の子どもでもよし、近所の12才の女の子に頼んでもよし、12月12日に書いてもらって、京都好きな方に教えてあげてください!
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